第21話
「いるぞ。」
高国は、俺をじっと見つめてそう言った。
まっすぐな瞳は何も揺らぐことはない。
「・・・大塔宮様。」
その言葉が、世界を凍りつかせる。
板間の床が、一瞬ひやりと冷えたような気がした。
もう、夏なのに。
それを足の裏に感じながら、ふっと笑った。
「・・・俺の、足利家の敵じゃない。」
「なっ!!だ、大塔宮様は、足利家を敵と見なしている!!金剛山は敵の手から解放されたのに、まだ武装解除していないのだぞ?!」
「そ、そうだ!あの男は、足利家を討とうとしている!!」
二人は弾かれたように、狼狽した。
それを横目で見ながら、ほくそ笑む。
「・・・あんな男、俺の敵じゃない。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」
「大和!!確かに今や私たちには敵はいないだろう!けれど、あの男だけは甘く見てはいけない!!今や絶対的な力と人気を博しているあの男を!!」
甘く、見ているつもりはない。
大塔宮様が、どれほどの人間かよくわかっている。
恐らく、今戦になれば足利は滅亡する。
けれどそんなシナリオ、歴史上には存在しない。
「・・・確かに今、大塔宮様が俺たちを討とうとしているのはわかってる。」
恐らく、楠木軍と伯耆国の名和軍を先陣にして、兵庫にいる赤松軍と共に戦をしかければ、俺たちは滅亡する。
鎌倉殿も滅亡するシナリオで、六波羅探題も滅亡したということは、
京の鎌倉軍は壊滅した。
今、俺たちは京に孤立しているも同然だ。
足利家は、実際まだかなり疑われている。
鎌倉幕府の北条氏と姻戚関係にあるし、高氏は武士。
鎌倉幕府から寝返って、宮方についたとしても、次の覇権を望んでいると思われても仕方ない。
いや、実際に狙っている。
もちろん、大塔宮様はそれを知っている。
姉ちゃんか、真白の手によって、芽吹いているだろう。
その胸に、俺たちが次の覇権を握る者だと、根深く覆い茂っているはず。
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