第二章 深紫

面白く

第19話

■■■■








「大和、具合はどうだ?」





すっと音もなく、御簾が上がる。



金色の光が差し込んでくるのを見て、誰か来たことを知る。





六波羅探題は、数日前に崩壊した。





俺が、二・三日寝込んでいるうちに、六波羅探題があった場所に、足利軍は移動した。



今は六波羅探題があった場所を、本拠地にしている。






「大和?おい・・・何を!!」





驚いたように、声を上げたのは、高氏だった。





「ど、どこへ?!どこへ行くのだ?!」






そう叫びながら、大股でガシガシと大きな体を揺すって、俺の傍まで歩いてくる。



俺の旅装束姿を見て、慌てて俺の腕を掴んだ。






足利高氏、か。






この男は、確かに俺を満足させてくれる存在だ。



俺の手足になって、俺の言うことを何でも聞いてくれる。





忠実な、俺の手足。






その代わり、この国の覇権をこの男が掴む。





でももっと、



もっと、楽しくなればいい。




にいっと笑う。





「ちょっと、出かける。」





「どこへ?!大和はつい昨日まで床に伏せっていたのだぞ?!まだ体調も万全ではないだろうが!」





「大丈夫。もう熱も引いたし、動かないと体がなまる。」





「動かないと・・・だなんて・・・。傷が開くぞ。やめておけ。」





高氏はおろおろと瞳を揺らす。





「どうしたんだ。」





そんな声がして、御簾が上がった。



入ってきたのは、高国だった。




高氏よりも高国のほうが、話しが早く進むのは目に見えていた。





「大和?どこへ行く?!」





高国も高氏と同じように目を見張った。




もっと楽しく。



もっと、遊んであげなければ。





俺はもう、ちょっとやそっとのことじゃ、満足できない。

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