第18話

「真白、でいいっ!」





突然、真白くんは声を荒げた。



びくりと体が震える。




「・・・そ、そんなに嫌なの?」




顕家って、呼ばれることが。



自分の名前が嫌いなのかな?




そんなことない。



素敵な名前なのに。







「顕家って、素敵な名じゃないの。」







そう言った瞬間、反射的に真白くんは顔を上げる。



息を、飲む。





悲痛な表情?



違う。





切なさが、全面に現れたような・・・。






その胸の内に滲むのは、唐紅。



そんな気がした。







「・・・呼ばないで・・・。雛鶴だけは。俺のこと、真白って呼んで。どうしても。」







雛鶴だけは。




姫、と呼ばなくなった真白くんに、目を見張る。






泣きだしそうに歪んだ瞳。







「本当の、名前。呼ばれると、狂ってしまいそうになる。」







ぎりっと、締めあげるように私の心が悲鳴を上げる。






「雛鶴の声で、呼ばれると。」






どうしよう。



情熱的な唐紅で、焼けつきてしまいそう。





そのまっすぐに貫いてくる視線に、こんなにも簡単に揺らいでしまう。






「・・・わ、わかった。呼ばないわ・・・。」






小さく呟く。



真白くんはそれを聞いて、ようやく私から視線を外す。






「・・・うん。そうして。」






消え入りそうな声でそう言って、真白くんは立ち上がった。





「今日は、疲れたでしょ?智久が来たら、早く寝なよ。周囲に護衛を立たせるから。」






私を見ずにそれだけ言って、御簾を上げる。



乱雑に元の位置に戻った御簾を見て、泣きだしたくなった。






どうしようもなく。




切なく、なった。

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