第17話

親房様はそれだけ聞くと、すぐに立ち上がって部屋から出て行った。



足早に。





御簾が元の位置に戻るのを見て、ほっと胸をなで下ろす。



何とか、うまいこといったのかしら。





とりあえず、北畠の娘として認めてくれたのかしら。







「・・・疲れた?」




そんな声が掛かって、顔を上げる。




「つ、疲れたわ。すごいわね、真白くんのお父様。」





真白くんは笑った。






「・・・父上のお気に召したみたいでよかったよ。」




「ええ。ありがとう。」






これで追い出されたら、どうしたらいいか全くわからなかったわね。





「顕家様。私、姫の寝具の用意を。」



「ああ。頼んだよ。」





智久さんは、立ち上がって母屋のほうへ駆けて行く。



また二人ぽつんと取り残される。





顕家様。





そう言った智久さんの声が、胸に残る。






「・・・私、」




「ん?」





真白くんが顔を上げる。



目が合う。







「私、もう『真白くん』だなんて、呼ばないほうがいいよね?」






軽々しく、真白くん、だなんて。







「『顕家様』って、呼んだほうがい・・・。」








最後の言葉が落ちない。





その長い指先が、口を塞いでいる。



真白くんは項垂れているせいで、顔が見えない。






ただあまりにも突然で、風が起こる。



それを頬に感じていた。






「・・・『真白』でいい。」







え?





「だ、だって、もうそんなに馴れ馴れしく呼べないじゃない。」





一応、義弟だとしても、真白くんは北畠の今の当主なんだし。




塞がれた指先をそっと外して抗うように言葉を落とす。





真白くんは項垂れたままだった。

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