第16話

親房様は、それ以上特に何かを言うわけでもなく、私をただじっと見つめる。




私も見つめ返して、視線が外れることはない。




けれど、ようやく親房様が口を開いた。






「・・・なるほど。大塔宮様がお傍に置きたいと願われる気持ちもよくわかる。」






ふっと、息だけの声で笑って親房様はパチリと扇を閉じた。



その音で、小さく体が震える。




あまりに切迫した緊張感の中にいたから、体がほんの少しの音でも敏感に感じ取ってしまう。





親房様は、私から視線を外して、真白くんを一度見て笑った。





意地悪く。





その笑顔を見て、さあっと血の気が引いた。




心臓が、バクバクと鳴るのに、指先は氷のように冷え切っていく。






知っている、と思った。






真白くんが私のことを特別な感情で見ているって、親房様は恐らく気付いている。




きっと、智久さんも気づいている。






「姫?いかがなされたか。」






智久さんを見ていた私にそんな声が掛った。



また心臓が収縮する。





「・・・いえ。大したことではございません。」






すっと、動揺したのを心の奥へ押し込めて視線を戻す。



親房様と再び目が合って、深く笑った。




にっこりと。






2人がそれを知っているからと言って、私には何もできない。





堂々と、していればいい。




やましいことなんて一つもない。







「・・・そなたが北畠の養子になることは、特に反対する理由がない。寧ろ、北畠としてはありがたいことだ。」




「はい。」





微笑んだまま、頷く。






「今日から私のことを父だと思って、良い子を産むのだ。」







父だと。




少し、悲しくなったのは、胸にしまっておく。





私のお父さん。





今、何をしているのかな?







「・・・はい。お義父上様。」





深くひれ伏して、顔を上げて微笑む。



滲み出る寂しさを、何とか押し込めて。

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