第15話

「来た。ひれ伏して。」




真白くんはそう言って、自分の着物の袂をさばいてひれ伏す。



それを見て私も慌てて床に手を付いて、頭を下げた。





御簾の上がる音がする。





ギシっと、床板が軋む振動が、床に触れているせいで直接手のひらに伝わってくる。




衣ずれの音がして、私と真白くんの前に誰かが座ったのがわかった。





息を飲む。






閉じた瞼の裏で、彼の横顔を思い出す。



大丈夫。





「・・・大塔宮様の御寵姫様の雛鶴姫でございます。」





真白くんはそう言った。



再び衣ずれの音がしたから、恐らく顔を上げたのだろう。






「・・・大塔宮様からお話しは聞いている。姫、顔を上げよ。」






顔を。



そう言った声だけで、びりびりと緊迫感が肌を刺す。




この威圧感。





なかなか感じたことがない恐怖感。



指先まで、震えてきそうだった。



ぐっと、力を込める。





絶対に、揺らがない。






私の名は?と、自分の胸に問う。






私はもう『桜井千鶴子』じゃない。



現代の女子高生だった私じゃない。





もう。





私の名は・・・。






「・・・はい。私が、大塔宮様からお部屋を賜りました、雛鶴と申します。」






そっと、顔を上げる。



目の前にいるその人をじっと見据えてそう言った。




真白くんとは、ほとんど似ていない。




ただ、私を見て、楽しそうににやにやと笑う。





扇で口元を隠しているけれど、そこからはみ出した唇はやっぱり微笑んでいる。



それにしても、やっぱり恐ろしいくらいの威圧感。





少しでも気を緩めれば、そのまま呑まれてしまいそう。

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