第14話

戸惑っていると、真白くんはそっと口を開く。





「・・・義理だけど、自分の娘になるんだ。父上だって気になっているんだよ。」





それを聞いて、ああ、と思う。



けれど、何かしらこのおかしな空気。




喜んで来る理由が他にもあるような気がする。





それが、何かよくわからないけれど。





「智久。」



「はい、承知いたしました。しばしお待ちを。」





智久さんは足音を立てずに、さっと消える。



後には二人取り残される。




途端に積もるように静寂が満ちた。






「・・・父が、」




静寂の中で、真白くんが声を上げた。



瞳だけ上げて、その姿を見つめる。




真白くんは、そっと瞳を伏せて私から逃れる。






「父が、無礼を働いたらごめん。」







無礼を?



どのような?と思ったけれど、真白くんの顔が余りに翳っているから、その言葉は呑み込んだ。





「・・・大丈夫よ。私、あまり気にしないから。」






明るく声を出して笑うと、真白くんの瞳が戻ってきた。




少し微笑んで。





どんな方なのかしら?



不安の芽が芽吹くのを感じる。





いいえ。



どんな人でも、私は揺らいではいけない。





私は、大塔宮護良親王の側室。






その名に恥じないようにしなければ。




彼の顔に泥を塗るようなことだけは絶対にしない。





深く息を吸い込む。



そっと自分のお腹に手を置いた。






大丈夫。



私は一人じゃない。

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