親房様

第13話

一番南にある、母屋とは独立した建物。





そこに通されて、真白くんは「ここを使って。」と言った。



え?と思った。





「ここって?この離れ全部ってこと?」



「そうだよ。どうせ誰も使ってないから。」




「そ、そうなの・・・。ありがとう。」





こんな広いお部屋をもらったって、どうしたらいいかわからない。




薄々感づいていたけれど、この北畠の家は豪邸だわ。




ぱっと周りを見回しても、どこからどこまでが家の敷地なのか全くわからないくらい広い。




ふと、胸の内に不安が芽生える。





私はこの家に見合ったような人間になれるのかしら。






正直、この時代の読み書きなんてほとんどできないし、京での作法なんて全く知らない。




今まではそれでよかったけれど、これからここで生活するんだ。





もしかしたら、それこそ死ぬまで。






「俺は普段は母屋のほうにいるけれど、何かあったら気軽に言ってくれればいいから。」




「・・・ええ。すごく助かるわ。」






本当に。



真白くんがいてくれると思うだけで、心が軽くなる。



もしも私が預けられるのが別のお家だったら、どうなっていたのかなと思うと本当に怖い。






「智久。」


「はっ。」



御簾の向こうに控えていた智久さんを、真白くんが呼ぶ。





「父上を呼んで。」






父上?



真白くんの?




思わず、体を強張らせた。





確か、北畠親房様。




後醍醐天皇の側近中の側近で、宮中の栄華を極めていた人。




とても頭の切れる人だって、聞いたことがある。




真白くんは親房様と仲が良くないだとか、そんなことも。






「・・・わ、私が出向くわ。」






思わず声を上げると、真白くんはすぐに口を開いた。





「姫は身重なんだ。あいつに来させればいいよ。きっと喜んで来るだろうし。」





喜んで?



次の言葉が出なくなって、ただ真白くんを見つめる。




それにしても、自分の父親のことを『あいつ』だなんてよっぽど深い確執があるのかしら。

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