第10話

「・・・姫。」




真白くんがそっと呼ぶ。



その手を差し出して。




逆光になって、その表情はわからなかったけれど。





そっと、立ち上がる。



牛車は高さがないから、前かがみで腰が痛くなりそうだけど、なんて悠長なことを考えながらその手に向かって歩き出す。







ただ、この手の内に居て。







そんな声が、耳元でまた繰り返される。





金色の世界へ向かって、手を伸ばした。



差し出されたその手が、私の手を取る。






「気を付けて。」






その声と共に、薄暗く青い世界から金色の世界へと身を投じる。





一気に世界が開けて、まだ肌寒い風が体を包んだ。








「ようこそ、御越しくださいました。義姉上様。」





真白くんに手を引かれながら、牛車を降りて地面に足がついたと同時に、傍に控えていた人が頭を下げたままそう言った。




義姉上様。





その言葉に、息を飲む。



一瞬で言葉を失った私の代わりに、真白くんが口を開く。






「顔を上げなよ。智久。」







智久?





どうしてかしら。



少し真白くんが不機嫌そうに見える。






呼ばれると同時にその人は、すっと、柔い動作で顔を上げる。




口元は微笑んでいるのを見る。





その一連の動作が、この上なく美しいと思った。







真白くんは智久さんから目を逸らしてそっぽを向く。




智久さんは顔を上げながら、私を見た。






一瞬驚いた顔をしたけれど、じっと私を見つめたままさらに深く微笑む。






にこにこと、この上なく。







「・・・ご想像していた通りの姫君様でございます。」







想像?



よくわからなくて、きょとんと見つめる。






真白くんが強く手を引いて、その力で我に返った。

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