第9話

牛車が止まる。



どうやら、北畠家に着いたみたいだった。




地味に緊張してきて、どうしようかしらと思ったけれど、なかなか降りられない。



乗り込む時は後ろから乗り込んだけれど、降りるときは引いてくれていた牛を外した後に前から降りるみたいで、時間がかかるようだった。





別に乗り込んだ時と同じように、後ろからちゃっちゃと降りればいいと思うのに。









「・・・京って、のんびりしているわね。」





呟くと、真白くんは笑った。





「雛鶴姫の性には合わないだろうね。」





それを聞いて、むっとする。



真白くんは意地悪く私を見ながら笑っている。





「性には合わないってどういうことよ?」





突っかかるように言葉を落とすと、真白くんは無邪気に笑った。





楽しい、と言うように。





それを見て、心臓がぎゅうっと収縮する。






「だって絶対に、待ってられないでしょ?せっかちだから。」






うっと思う。



確かに私は現代にいた時から、人の世話を焼いてきたような人間で、できれば物事は素早くこなしていきたい。



だってそうしないと家事とか終わらないし。





言い返せずにただ眉を歪めた私を見て、さらに真白くんは無邪気に笑う。





ケラケラと、声を上げて。





余りにも邪気がないから、怒るに怒れないわ。







「顕家様。」





不意にそんな声がして、無邪気な空気が打破される。



真白くんは一瞬で笑顔を崩して、牛車の外の声がした方向を睨みつける。





「ご準備が整いました。前すだれを上げてもよろしいでしょうか?」





「いいよ。」






真白くんがそう言った時に、するすると前方のすだれが上がっていく。





少し薄暗かった世界に、光が差し込んでくる。






きらきらと、煌めくように。



そのまぶしさに、瞳を細める。






真白くんが先に光の中へ身を投じた。

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