ひとり

第93話

彼が死んだら、私はどうやってこの時代で生きていくんだろう。




彼が以前、自分が死んだ後に私が困らないようにしてあると言っていた。




この時代で何も持っていない私が、困らないように。





この先何十年もそれに甘えて生きるのかしら。



ただ半年の彼の思い出を糧に。






一人で。






一人で・・・?







「行こうよ。」




ぐっと、抱きしめる力が籠る。





「行こうよ、京へ。俺と生きてよ。」






鈍色の雲が、空を覆って重い。


苦しくて、涙が込みあがってくる。






「最期まで、俺の傍にいてよ。」






最期まで。




死ぬまで、傍に。



真白くん。







ああ、世界が涙で滲んで崩壊する。







「・・・けない。」




「え?」







「行けない・・・。」







行けないわ。



絶対に。






「行こうよ。」






言葉にならなくて、首を横にひたすら振る。



その腕を、剥がす。





真白くんはじっと見ていた。



私を。






微塵も揺らがずに。






「行こう。」







その強さに、抑え込まれてしまう。




有無を言わさない強さで。

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