第91話

「そんな・・・宮様は亡くなってなんか・・・。」





「生きていたとしても、この色を着るのがいいよ。もしも亡くなっていたとして、明るい服を着ていたら、宮様に失礼だ。」





死者に、失礼。




この時代はそういうことにものすごく敏感だって、知っているはずなのに。




けれど。






「私は着ないわ。」




「え?」






「私は、絶対に着ない。」







「月子?」



キリコさんの眉が訝しげに歪む。





「アンタは殿の恋人なんだ。尚更喪に服した方がいいよ。」






そんなのわかってる。



けど。






「絶対に着ない!!」







その着物をキリコさんに押し返して、そのまま来た道を戻る。




「おい!月子!!月子!」





声だけ追って来る。






絶対に、着るもんですか。




ようやく、涙が込みあがってくる。






喪服なんて、絶対に。







絶対に!!






「どうしたのさ。」




ふいにそんな声が掛かる。




はっと気付くと、真白くんが立っていた。





そう言えば、正成さんと4人でいた時から真白くん一言も話していない。



そんなことよりも、自分が泣いていたと思って、我に返る。




「な、何でもないわ。」





涙を、見られたくなんてなかったのに。



また来た道を逆走する。





「何でもないわけないだろ。」





怒ったようにそう言って、真白くんは私の腕を取った。




その反動でその場に縫いつけられる。






「宮様の安否がわからなくて・・・」





真白くんは私に向かって言葉を落とす。



それを受け止める、力が無い。





惑うなと誓っているはずなのに、ぐらぐら揺れる。





強く目を閉じた奥に広がるのは、あの鈍色。






喪服の色。

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