第90話
正成さんの部屋から出て荷物を置こうと奥の部屋へ続く廊下を歩いていたら、突然呼びとめられた。
キリコさんが、手まねきしていた。
「どうしたの?」
「アンタ、当分明るい色の小袖を着るのはよしな。」
「え?」
突然そう言われて、自分の着ていた着物に目を移す。
そんなに明るい着物を着ているとは思わなかったけれど。
どうしても血が付くから、暗い色の着物をなるべく着るようにしている。
付いた血が目立たないように。
「この色の着物を持っているかい?」
問われて、視線を下に映す。
着物が一着広げられていた。
「・・・いいえ。持ってないわ。」
これは、何色と言えばいいのかしら。
青みの灰色。
灰色に、薄く青が走っている。
「じゃあこれあげるよ。当分はこれを着な。アタシはもう一着持っているし。」
押しつけられて、受け取る。
「あ、ありがとう・・・。何色と言うの?」
尋ねると、キリコさんは眉を歪めて笑った。
「鈍色。」
にびいろ。
そんな色の名前、聞いたことがない。
「喪服の色さ。」
「も、ふく?!」
思わず声を荒げる。
「そうさ。宮様が生きているか死んでいるかわからないけれどね。一応、宮中では不幸があった時、この色を着ることになっている。」
キリコさんの言葉に、ぐらりと体が揺れる。
鈍色を、ぐっと握りしめた。
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