第89話

「でも姫の心の内では決まっているんだろう?」





決まって。




「いるにきまっているわ。あの人が死ぬわけないわ。」




「でも、誰かが宮様の名を叫んで腹を切って吉野は落城したのは正確な情報らしいぞ?」







「そんなの知らないわよ。間違いよ、きっと。」







力強く言い切った私に、正成さんは笑い出す。



東湖さんも笑っていた。



正季さんのしゃべり方が移ったかしら。






「あんたがそう言うんなら、宮様もきっと生きているだろうさね。」





「ええ、きっと、宮様は生きていらっしゃいますよ。」





絶対に。



生きていると信じている。






「連絡が入ったらすぐに姫に言うさ。」




「お願い。」





「ああ、それよりも疲れただろう。上赤坂から大変だったなあ。」




正成さんが悠長に言ったのを聞いて、我に返る。





「正季さん結局残ったけどいいの?」




「ああ、正季は大丈夫さあ。あいつは死んでも死なない奴さね。」





一応弟なんだから。




思わず呆れかえる。





「うまいこと抜けてくるさあ。俺もあいつを信じてる。」





にいっと笑う。



その言葉を聞いて、頷く。





大丈夫。




きっと皆もう一度会える。





会いたいと、願っているから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る