第88話

「月子。」




「正成さん。」





呼ばれて正成さんの元へ駆ける。



呉羽さんはそんな私をじっと見つめていた。






言いたいことはわかってる。



酷い女だって、わかってる。






「真白も、東湖も来るのさ。」






正成さんはそう言った。




「俺は?!」




左虎くんが声を上げる。




「左虎は、呉羽殿を運んでやりなあ。キリコ、頼んださね。」




体よく3人を追い払って、私たちは千剣破城へ入る。



久し振りに来たけれど、築城を手伝っただけあって、懐かしくてたまらない。







「聞いたかね、姫。」






「・・・聞いたわ。」




主語がないけれど、察して口を開く。





正成さんお得意のこの喋り方もずいぶん慣れた。






「どっちかって言うと、呉羽のほうが参ってるみたいだなあ。」






ケラケラと笑う。




「殿、姫は・・・」




私の代わりに、東湖さんが声を上げる。






「わかってるさ。強情で見事な姫だねえ。それでいいさあ、あんたはそれでいい。」






正成さんは私を見てにやりと笑った。





「呉羽のようなのは、返って足手まといさ。あれもただの女だっただけさ。大塔宮様のご側室の器には程遠い。」






「そんなこと、どうでもいいわ。それよりも大塔宮さまの安否はわかったの?」





私の称賛なんてどうでもいい。



誰かに誉められたくてそうしているんじゃない。





彼一人に、認められたいだけ。





それだけで揺らがないと決めただけ。







「さあ、わからんねえ。」




ケロリと、正成さんはそう言った。



初めから正成さんには期待なんてしてなかったけど。






「伊賀忍の情報すら錯綜してる状態さね。俺が知るわけないだろうよ。」






ケラケラと笑った正成さんの頭を、思いきりはたきたい衝動に駆られる。

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