喪服

第85話

「月子殿!!」





名前を呼ばれて振り向く。




「月子!おい、大丈夫か?!」




東湖さんと左虎くんが駆け寄ってきた。





「ええ、大丈夫。それより呉羽さんを。」






真白くんが必死になってここまで抱えてきてくれたけれど、さすがに千剣破城までの険しい道を一人で抱えて行くのは無理と思っていたから本当によかった。




「んじゃ!俺からいただきま~・・・」




「何を言ってるのさ!!」




バシっと左虎くんの額を、キリコさんははたく。




「しっかり背おってよ!」



「へ~い。」




左虎くんはぶつぶつ言いながら、呉羽さんを背負う。



呉羽さんは一人で歩けないほど、狼狽していた。




これが彼を愛する人の本当の姿かもしれないとぼんやり思う。






「大丈夫でしたか?よく上赤坂から脱出できましたね。」





東湖さんがそっと私に寄って、心配そうに覗き込む。





「ええ。平野さんが降伏を申し入れたおかげで、敵兵が引いたのよ。それでお城から出れたってわけ。」




「そうでしたか。それよりも・・・」





東湖さんは声をひそめる。







「大塔宮様が御薨去されたかもしれないということを聞きましたか?雛鶴姫。」







そう言って、私の顔色をうかがう。




「聞いたわ。」




吐き捨てるように返すと、東湖さんは目を見張った。





「呉羽さんから聞いたわ。それが、何?」






「な、何などと・・・」





「私は彼の首をこの目で見るまでは、死んだなんて信じないわ。」





絶対に。



東湖さんの目をじっと見つめてそう言い切る。






「私は信じないから。」






繰り返すと、東湖さんは驚いたまま固まっていた瞳を柔く歪めた。





「・・・全く、貴女様は見事でございます。」





見事。



本当に、自分でもそう思う。






けれどこれは心に決めていたこと。




私が揺らげば、周りも必ず揺らぐ。





無駄に不安にさせる。





彼の側室になった時点で、彼以外の前では揺らがないと心に決めたはず。

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