第84話

「あ、貴女は!!何て人ですか!!大塔宮様が!!大塔宮様が御薨去されたかもしれないんですよ?!!」






呉羽さんが、噛みつく。



そっとそれを見た。






「・・・まだ、あの御方がご薨去されたなんて決まったわけではありません。私は、信じません。」







信じるものか。






だって、彼は約束してくれた。



私ともう一度会うと。






死ぬ覚悟ではなく、生き抜く覚悟をきめてくれた。







「貴女は何て人ですか!!月子殿!!正成殿は生きているからと!!そんな無慈悲な!!」





「呉羽!!」





真白くんが声を荒げた。






「無慈悲で結構です。それよりも、私たちも一刻を争います。早く千剣破へ。」







私たちは私たちのやるべき事を。






「それが、吉野のためにもいいのでは?大塔宮さまの真の願いはこの戦に勝つこと。そうでしょう?」






この戦に勝つことが彼の本当の願いならば、少しでも役に立ちたい。




そう思って私は十津川から出てきたはずだ。





彼が死ぬわけない。



絶対に惑わない。






その首を、この目で見るまでは。




抗いようのない事実だと、理解するまでは。








「さあ、参りましょう。」




呉羽さんを引きずるようにして、上赤坂から出る。






「何て、酷い女!!」






呉羽さんは唇を噛みしめてそう叫んだ。




確かに、私は酷い女かもしれない。



愛している人が死んだかもしれないと聞いて、平然を装う女なんて。







「酷くて結構。大塔宮さまが死ぬなんて、絶対に私は信じませんから。」







呉羽さんは私がそう言ったのを聞いて、口をつぐんだ。




「絶対に。」





もう一度念を押す。




自分に向けて言う。






惑ってしまわない、ように。

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