第82話

「・・・が。」




「え?」







「吉野が落城しましたわ!!」









え?




ぐらりと、自分の体が揺れる。







「なんだって?!!」






真白くんの荒げた声も、衝撃になってさらに揺れる。




吉野が?







さっき、誰かが私の名前を呼んだ気がした。








誰かが、じゃなくて。




紛れもなく。







「宮様は?!!」







彼が。








すうっと、熱が足元に落ちる。



暑くなんてないのに、手に、額に汗が滲む。





心臓の音が煩い。



煩い。






「呉羽!!宮様は?!!」







ああ、もっと静寂の世界に。




耳を澄まして、彼の声を聞きたいのに。








『けれどアンタね、城が落ちるってことは大将の首が落ちるってことだよ?』








代わって湧き上がるのは、キリコさんの声。




城が落ちるのは、大将の首が。







紛れもなく、彼の、首が。








「ひな・・・つ、月子!!」






真白くんが、私の名を呼ぶ。




体がガクンと滑り落ちる前に、真白くんに抱きとめられる。





意識が飛びそう。





ぐっと両足に力を込めて、何事も無かったように真白くんの腕から離れて立つ。





惑っては、ならぬ。






彼の声が聞こえる。





惑っては。

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