第79話

「皆を助けるためだ、と言ったが、俺は好かん。最後まで足掻いて死んだほうがましだ。例えば玉砕覚悟で敵陣に突っ込めばいい。」






正季さんはガバリと起き上った。






「だから好かん。兄上の弟の俺や仲間は、降伏なんてできないさ。」







確かにその言い訳では、平野さんは助かるけれど、正季さんは助かる余地がない。




正季さんは、しょうがなくこの軍にいたわけじゃないし。






「明らかに、正成さん配下の部下を助けるような言い訳じゃないわね。」







呟くと、正季さんは頷いた。





「平野とその部下を助ける言い訳だ。俺たちはどうでもいいのさ。」




「腹が立つね。当の平野は?」






「今頃それを敵兵の伝令に伝えてるだろ。あんたらはさっさと行け。」






さっさと。



身捨てて?





「尚更、できないわ。」





首を振ると、正季さんは微笑んだ。






「言っただろ?俺はあんたらが邪魔なのさ。俺と俺の仲間だけになれば動きやすい。」






「何か考えてるね。」





キリコさんは溜息を吐いてそう言った。



正季さんは一度、唇の端を上げてにやりと笑う。






「間違いなく、降伏は鎌倉殿に受け入れられるさ。どうやって落とそうか困ってるだろうしな。喜んで両手を上げて歓迎する。平野たちも喜んで降伏するだろう。」






やっぱり、兄弟。




正成さんの瞳の奥に時折灯る冷たさに似ている。

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