第77話

「アタシたちがここにいたって、何もできないさ。ここは落ちる。けど、戦が終わったわけじゃないんだよ。」




ここが落ちても、戦はまだ続く。




千剣破城がまだ残っている。






「そうだ。これからは千剣破に戦線が移る。そうしたらそっちが激戦区になる。救護班はただでさえ少ないんだ。そっちへ行け。」




「でも・・・正季さんは・・・。」





正季さんは?



ここで死ぬの?








「死なん。死んでたまるかってんだ。」









正季さんは私の言葉を察して、はっきり言い切った。






「けれどアンタね、城が落ちるってことは大将の首が落ちるってことだよ?」






キリコさんも少し動揺して、声を上げる。





「俺は大将じゃない。副将だ。」





再びはっきりと言い切った正季さんに、拍手を送りたい。




「えーっと、確か大将さんは、平野・・・。」



「平野将監。」




キリコさんが呆れたように声を上げる。


だって、あんまり会ったことがないんだもん。





ひらのしょうげん。







「俺はあいつは好かん。」







好きじゃないって言ったって。



思わず呆れかえる。





それよりもこの人に好きな人はいるのかしら。



人間が嫌いっていうオーラを全開にしてるのに。






「確かにあの男は、元々持明院統の手の者だしね。」



「そう。俺たちとは相入れんよ。」





「持明院統?」





持明院統は、大まかに言ってしまえば鎌倉方だったはず。




敵対する後醍醐天皇が、持明院統に対立する大覚寺統だから。





「そう。持明院統と仲のいい、西園寺家の家人さ。」



「さ、西園寺家って・・・」





確か以前、飛清さんが教えてくれた。





関東申次――かんとうもうしつぎ。





鎌倉幕府と、朝廷との連絡や、意見の交換を行っていた。




そのせいで、巨大な権力を持っている。




天皇陛下との姻戚関係も手伝って。






その西園寺家の、家来。

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