第75話

「桜井、大和。」










彦四郎さんは、目を見張った。







「俺の姉の名は、桜井千鶴子。」







「桜井・・・千鶴子・・・。やはり、お前は雛鶴姫の・・・。」







一度頷く。





「2人は必ず会わせる。」






必ず。






これが俺の望んだこと。





だったら最後まで見届ける。







「本当に、ありがとう。」








掴んでいた手を離す。



そのまま踵を返して走る。






宮様の元へと。








正しい、歴史。





彦四郎さんも俺とは逆方向へ歩いて行く。






決意の表情で。






宮様は、このまま落ち延びる。



死ぬのは、村上義光。








これが、正しい歴史。






そしてそうなった。






歴史は歴史通りに。








「後醍醐院第三皇子、大塔宮とは私のことである!!!吉野はお前たち逆臣のために落ち、私はこれから自害する!!よく見て、手本としろ!!!!」







青い空に、そんな声が響いた。



赤い吉野に響き渡るように。







山道を駆け抜けながら、その声を聞く。




涙が止まらない。











わあっと言う声が上がった。




我こそお首を!と叫ぶ声があちこちで飛んだのをただ鼓膜で受け止めた。

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