第73話

「・・・必ず、守るぞ。」







宮様は、俯きながらそう言った。






「・・・すまぬ、義光。ありがとう。」






本当の名を。




一度2人は強く抱きしめ合う。









「俺は、生きる。」










生きる。




これほど強い言葉を、俺は聞いたことがない。






「生涯、お前を弔って生きよう。」




「ありがたき、お言葉。けれどお構いなく。姫をお大事になさってください。それが一番の弔いです。」





「ああ。」





抱きしめ合ったまま、宮様は頷く。





「さあ、もう敵が迫っております。私が引きつけますゆえ、宮様はその隙に。皆頼むぞ。」





皆泣きながら頷く。






「さあ、お早く。」





「彦四郎・・・。」






「お早く。皆、走れ!」







抱えられるようにして、宮様はその場から引きずられて離れる。







「彦四郎!!!」








「また、来世でお傍に。」









何度生まれ変わっても、お傍に。




ただ一人の、主君。





何度。





彦四郎さんはそっと微笑んでその背が遠くなるのを見つめていた。







朧に霞んで消えるまで。









消えた途端、一気に音が戻ってくる。





「・・・太一も行くのだ。」



「・・・うん。」






「宮様を、頼むぞ。」






「・・・うん。」






彦四郎さんは、宮様の赤い鎧を着ていく。






「だませるとは思ってはいない。何せ私は歳を取りすぎた。きっとすぐに偽物だと露見するだろう。少しの間だとは思うが、足止めする。逃げろ。」






淡々と、彦四郎さんは言葉を落とす。




死に向かうと言うのに。







死に向かう人間は、




なんて強くて、なんて美しいんだろうか。




そんなことを思う。






涙が、一粒零れた。

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