第72話

「貴方様は、姫をも殺すおつもりですか?」







彦四郎さんは、そっと微笑んだ。




姫をも。




宮様が死ねば、姉ちゃんも死ぬ。








「貴方様は、女一人の約束を守れないほどの男ですか!!!」








宮様の肩を掴んで、彦四郎さんは叫んだ。







「いいえ!貴方様は帝の皇子!!誰よりも、お幸せになってくださらないと困ります。私のためにも。片岡のためにも!誰よりもお幸せに!!」








その力に抗うことなく、宮様は揺さぶられていた。



彦四郎さんが力を込めるたびに宮様の瞳から涙が散る。









「・・・私の、ただ一人の誇り高き主殿。約束を、破られないように。」










彦四郎さんはそう言って、宮様の鎧を一気に剥いで行く。







宮様は抗うことをしなかった。





ぎゅっと唇を真一文字に結んで、全て鎧が落ちるのを無言で待っている。







「後醍醐院の善政のために。そして、姫のために。必ず生き抜くのです。私と約束を。」






必ず。




もう一度、会うために。






その名を、呼ぶために。

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