第67話
「宮様が、死んじゃうよっっ!!」
涙混じりに叫んでいた。
俺は汚い。
汚くて、しょうがない。
俺の頬を、その手でそっと包む。
いつかそうしてくれたように。
それで正気を取り戻す。
彦四郎さんは俺の目を見て一度、微笑んだ。
「・・・太一、後は頼んだぞ。宮様を支えてくれ。」
また、この笑顔。
澄んだ、笑顔。
これを望んだはずなのに。
「これを、姫に渡してくれ。」
自分の懐から短刀を取り出す。
懐刀。
「武家の娘は嫁ぐ時に、懐刀を持って嫁ぐ。姫は武家にというわけではないが、きっとその御身を守ってくださる。」
何かあった時に、自分の身を守るために。
もしくは、自ら死を選ぶ時のために。
差し出されたそれを、そっと受け取る。
彦四郎さんは笑って一度頷いた。
そして俺の横から音もなく駆けて行く。
その後ろ姿を見つめていた。
断片的に動く世界に、苦しくて座り込む。
全てがコマ送りで展開される。
俺は、汚い。
歴史は歴史通りに。
そんなんじゃなくて、ただ宮様を助けたかっただけなのに。
けれどその裏で、失われる命が必ずあると言うのに。
歴史を、動かしてしまったのかな?
いや、これすらも歴史?
ああ、本当に。
俺が殺したも、同然。
「うわあああああああああっっっ!!!」
運命なんて、クソくらえだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます