落城

第66話

だめだ。





ただ、そう思う。




このままでは宮様が死んでしまう。





なぜ、歴史は動かない。



なぜ、俺の知っている通りに、全て動いていかない。






どうして?





もしかして、俺がここにいるからか?





俺が、来たことで歴史は歪んでしまった?






歪むようなことを何一つしていないけれど。






けれど、姉ちゃんと違って異質な俺は、存在するだけで歴史を歪めてしまっている?







灰の中をただひたすら走る。



ばらばらと散る、白い美しさを掻き分けて。






「・・・しろうさっ・・・」





歴史は歴史通りに。





「彦四郎さんっ!!!」






何が何でも、歴史は歴史通りに。






「太一?!どうした!」




無理やりにでも進めてやる。





2人をもう一度会わせるために。





このままじゃ、俺が嫌だ。








酒宴にも出ず、一番大きな門を守っていた彦四郎さんの元へ駆ける。



そして名前を呼んで、すがりつく。





彦四郎さんの鎧はボロボロで、背には矢が10本以上刺さっている。






「宮様が!」






息が上がって言葉にならない。




もう、一刻を争うって言うのに。






「宮様がっ!!」







ああ。



この体が憎い。





もっと走れたら。



もっと、何かをこの手で守れたら、いいのに。







そう思った瞬間、世界が揺れる。







ああ、と思った時、門が開いた。




せき止めていた水が、一気に決壊する時のように。






轟音と共に、敵がなだれ込んで来る。







吉野は、落ちる。

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