第65話

「宮様!!」





叫ぶ。


けれど、振り向かない。






構わず、もう一度叫ぶ。







「宮様!!姫に・・・!!雛鶴姫に会ってよ!!!」








もう一度。





二人が。






どうしても会わせたいと言った、彦四郎さんの声が耳元で鳴る。





だから、生きて。







「お願いだから会ってくれよ!!!」








声を振り絞る。




一歩も動けなかったから。





ならば声だけでもと思って、その背に届くように。





涙で、届いているかもわからなかったけれど。







「雛鶴姫に会って!!!」








聞こえているはず。




絶対に、聞こえているはず。






けれど宮様は振り返らない。






白い灰の中を、正面だけ見つめて歩いて行く。



死へ向かって。






ああ。






「・・・姉ちゃんに、会ってくれよ。」







届かない。




風にさらわれて、消える。







俺の、姉ちゃんに。






きっと待っている。




その名を胸の内で呼んで今日も。






今この瞬間も。








世界は灰白に霞む。



灰がばらばらと落ちてくる。





また戦が激化したのか。






もう、その背も霞んで見えない。







歴史は、動かない。


知っている通りに、動かない。






俺の見た初春の景色は、息ができないくらいの、灰の桜吹雪だった。

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