第63話
「お前たちにもいろいろと苦労をかけたな。」
苦労を。
「・・・そんなこと・・・」
呟く。
ない?
苦労を。
ここに無理やり連れて来られて、現代で生きていれば感じるはずのない苦労を今まで俺はしてきたけれど。
「そんなこと、ないよ。」
言い直す。
宮様の目を見つめて。
苦労なんて、思っていない。
「宮様!!どうか!どうか落ち延びてください!!先の戦の時のように!逃げて、もう一度!もう一度、戦を!!」
僧兵が、ひれ伏して叫んだ。
もう一度、落ち延びて。
先の戦で、十津川に落ち延びた時のように。
「できぬよ。」
宮様は笑って簡潔に言った。
あの、澄んだ笑顔で。
見たくない。
悲しすぎて、その笑顔は見たくない。
「三度目など、兵力もない。これが最後の機会だった。私はやることはやったはずだ。」
やることは。
宮様の令旨を見て、各地で鎌倉幕府に反旗を翻した人たちがたくさんいる。
吉野で戦を起こして、楠木正成のほうに兵力を集中させないようにした。
駒は揃った。
あとはもう、千剣破城がどれだけ持つか、
則祐の父親の赤松則村がどこまで京を脅かせるか。
もう、宮様がやるべきことはやった。
あとは、死ぬだけ。
見事に切腹して、全てに幕を降ろすだけ?
そんな。
そんな!!
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