第62話
その訳は、
美しい私の国は、戦で破壊されてしまったが、山や河は何ら変わらない姿でそびえ立つ。
城にはいつも通り春がやってきたが、ただ草や木が生い茂るばかりで、あの活気はもうどこにもない。
美しいはずの花を見ても、この世を嘆いて悲しくなって涙が溢れ、
戦のせいで家族と別れたことを思うと、心を和ませてくれる小鳥の突然降ってくる美しい歌声にも、戦の警戒心から驚いてしまう。
三か月もの長い間、戦火は続き、今も尚敵襲を知らせるのろしは立ち上っている。
そんな中届く、家族からの手紙は何よりも大事なもので、金を山ほど積んだものに値するほどだ。
この白髪頭を掻くと、心が疲れているせいか、抜けてどんどん短くなってしまい、
もう、役人の象徴である冠を留めるかんざしも、この頭に差すことができなくなってしまった。
「・・・人間って、むなしいイキモノだな。」
呟くと、僧兵は笑った。
「戦をしたって、血を流したって、山や河は何も変わらないのにな。」
何も。
諸行無常。
全ては、むなしいだけ。
生きることも、
死ぬことも、
誰かを愛することも憎むことも、むなしい。
「・・・杜甫は美しい詩を書くから好きだ。」
ふいにそんな声が背後から聞こえる。
振り向くと、宮様が笑って立っていた。
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