第59話

『吉野は、落ちる。』







何度も繰り返されたその言葉。





その裏にある真意は、ただ一つ。







吉野が落ちる時は自分も死ぬ。だ。








そんなこと、わかっていたのに。





宮様が切腹して、その首を誰かが取って吉野の戦は終幕を迎える。







捨てゴマ。





それが全て。







このあと楠木正成がうまくやって、後醍醐天皇が隠岐から戻ってきて、万々歳で終わる。




物語りは、終わる。





大円満で。







その影に、こんな男がいたことも知らずに。








歴史に埋もれて。



ただの教科書の一行になって。





いや、最早教科書にも載らずに。






太平記では、ただの傲慢で、短絡的な皇子に成って。








生涯その名を知ることもないまま。





やっぱり悲劇の皇子として、ひっそりと700年後の現代まで語り継がれるあんたの真の姿を、誰も知ることのないまま。








嗚咽が止まらない。





吐き気が止まらない。









もう二度と、『雛鶴姫』に会うこともないまま。







もう二度と、その名を呼ぶこともない。









紅蓮の炎で焼けつきる。






その骨の白さも、飲み込んで。

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