第55話

足が、重い。




肩が、痛い。






自分の背や肩に刺さった幾本の矢を、見つめる。






刺さったと言っても、鎧に刺さっているからそこまで深手じゃない。




何人、殺したかわからない。




ただ、赤に染まった道を行く。






本陣のある蔵王堂は、落ちたかなと思ってその方向へ歩き出す。





疲れた。





宮様は?



彦四郎さんは?






もう、全て終わった後か?







また夜が来る。





閏2月1日。



また繰り返す、2の月。







もう、歩けない。



歩きたくない。





もう、何もかも終わりにしてしまいたい。






それでも山を登って行く。




ごろごろと転がる死体を横目に。






ふっと世界が開けた瞬間、体が支えられずに膝から落ちた。







赤に。





吉野は、燃えていた。







ごうごうと唸り声をあげて、炎の中に沈んでいた。




きっと岩菊丸たちが火をかけて行ったんだろう。






そうだ。



これも、歴史。






全てが紅蓮の炎の中に沈んでいる。








夜の深い闇さえも飲み込んで、赤に。





咲きだしそうに揺れていた、桜たちも炎に包まれている。





もう、今年の春に咲くことはない。



もう、芽吹くことも、ない。

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