第54話

「誰だ!!」






そんな問いが前方から掛って、足を止める。






「誰?そんなこと、関係ないよ。」





「あいつだ!!赤いお・・・」





赤い鬼、と叫ぶ前に、その男は地に伏した。




赤を撒き散らしながら。






「弓を引け!!あいつは、赤い鬼だ!!近寄るな!」





「遅い。」





呟いて、剣を振るう。




その瞬間、また赤が散る。





遅い。




俺にとってはもう遅い。





何もかもが、遅い。






「赤い鬼には構うな!行けえええっ!!」







初めから、決まってる。



吉野が落ちるって、初めから。





俺が無駄にここで戦うことはない。




無駄に命を奪うことはない。






けれど、一人でも。



一人でも少なく。







どうか誰も死なないでくれ、と。









俺に構わず、100人以上の人間が横を駆けて行く。




お願いだから、誰も。






こうやって、誰かを殺している俺は矛盾しているけれど。

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