第50話

「・・・どうしてここに?鎌倉幕府の味方をするのが正しいんじゃないの?」






武士ならば。




敵対する朝廷の味方などしなくてもいいじゃないか。





「私の父は世渡りがうまくなくてな。いや、これは一族挙げてかもしれないが。」





小さく笑う。


苦しそうに。






「鎌倉殿から忘れられているような一族だったのだ。そのせいか皆、鎌倉殿に反感を持っていた。無論私もな。」





確かに、平家討伐で名を上げたはずだけれど、だからどうということもなかったと思う。




取り立ててすごい役職に就いたわけでもなかったはず。





「ある日私が、京の大番役に任ぜられて京に出ることになったのだ。」






おおばんやく。



地方の武士に、京や鎌倉の警護を仕事として任せていた。





それが大番役。






そうか。




それで彦四郎さんは信濃から京へ出てきていたのか。






そんな彦四郎さんに目をつけたのが、宮様だ。







「・・・宮様が、接触してきたってこと?」






彦四郎さんは頷いた。



やっぱり。





信濃の武士として大きな力を持つ村上氏を、宮様が放っておくわけがない。



その位置関係からして、明らかに村上氏をこちらにつけておいて損はない。





「初めて会った時から、私はこの御方の為に死のうと思っている。」







初めて。



美しい、主従関係。





この御方の為に、死のうと。






涙が出るくらい、俺には全く理解できない感情。






「・・・自分の命を大切にしなよ。」






思わず呟いた。



自分の命を。





自分だけの命なのだから。






彦四郎さんが何も言わなかったから、顔を上げる。




思わず息を飲む。






俺を見て、微笑んでいたからだ。

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