第49話

「太一、まだ眠らないのか?」






ぼんやりと景色を見ていると、彦四郎さんが声をかけてきた。



眠らないんじゃなくて、眠れない。





「うん。何か胸騒ぎがするから。」





小さく言って、牽制する。



まだ鎧を全て脱げないのは、どこかで自分一人生き残りたいと願うからかな。





こんな自分汚いと思うけれど、生きたいと思うのだからしょうがない。






「胸騒ぎ、か。」




「うん、俺のカンは結構当たるよ。」





カンなんかじゃなくて、俺は歴史を知っている。



歴史は歴史通り進む。




ならば間違いなく。






「・・・そうか。用心しよう。」






頷く。



用心してくれ。



お願いだから。





「宮様は?寝てる?」





彦四郎さんは小さく首を横に振った。





「あの御方は、いつもそうなのだ。いつ眠っているのかすらわからない。常にお傍にいる私にさえ、揺らぐ姿を見せてはくれない。」





その姿を見せるのは、ただ一人だけ。




雛鶴姫だけ。






そう言いたいのは、わかっている。







「・・・そう。彦四郎さんはいつから宮様とご一緒にいるの?」






「私か?私は、先の戦の少し前だ。」





「え?2年かそれくらいなの?」




「ご一緒にいるのはな。元々私は信州信濃の武士だ。」






信州信濃。




現代でいえば、長野県。




武士?もしかして。






「彦四郎さんは元々、鎌倉方だったの?」






尋ねると、彦四郎さんは声を上げて笑った。





「そうだ。鎌倉幕府に召し抱えられている武士だ。元々私は河内源氏の庶流なのだ。」






そうか。


彦四郎さんの本当の名は、





村上彦四郎義光。




むらかみよしてる。





信濃村上氏。


確かに彦四郎さんの先祖は、源平の乱でもその名を残している。






源氏ならば、鎌倉幕府を開いた源頼朝も源氏。





鎌倉幕府の人間。

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