第三章 赤

崩壊前夜

第47話

■■■■








まだ赤の中に沈んでいる。






けれどようやく赤にも慣れた。




鮮やかな赤も、退廃的な赤も、もうこの瞳に映しても何も感じなくなった。






ただ、赤だなと思うだけ。




ただ、人が死んだなと思うだけ。






遅れて広がる鈍い痛みのように、今はまだその痛みを感じない。





きっと平和が訪れた瞬間、全ての痛みがこの身に襲いかかってくるのだと思うけれど。






「・・・今日は何日だ?」




宮様がぼそりと呟いた。




若干その顔が青い。





寝ているのかな?と思った。



思えば、宮様が寝ているところをここ数日見ていない。





眠ることなんてできないくらいだって、わかってはいるけれど。







「・・・如月の、30日だよ。」





そう言うと、宮様は少し笑った。




2月30日。





現代とは暦が少し違う。




4年に一度、2月29日があるという観念がない。



この時代、一か月の長さが29日――小の月と、30日――大の月と決められていた。




けれどこれでは季節がずれてきてしまうから、代わりに閏月というものが旧暦を使用している間、存在した。




この閏月は、一か月間まるまるある。




つまりこの閏月が入る時は、1年が13か月あることになる。


3年に一度、一か月まるまる。




そして今年はその閏月が入る年になる。





つまり明日は、3月1日じゃなくて、閏2月1日になる。



もう一度、2月を繰り返す。



と言っても、2月だけではなく、閏5月になることも、閏9月になることもあって、いつ入るかはずれた季節による。



今年はただ、閏2月に設定されただけ。





首を傾げると、宮様はようやく俺を見た。






「十一日目だ。」







にっと笑う。




不敵に。





10日も持たないと言っていたが、持ったぞ、という真意が隠れている。





思わず笑った。




この人の、こういう押しつけない無邪気さが好きだ。






如月の30日。




俺はいつ吉野が落城するか知っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る