第44話

「・・・やるねえ、月子。」





代わりに声をかけてきたのは、キリコさんだった。





「別に。腹が立っただけよ。」





キリコさんは私の返答を聞いて、苦しそうに笑う。





「呉羽のあんな顔、久し振りに見たよ。何も言い返せない呉羽も珍しいし。」





「そう。」




「あんたは意外と肝が据わってるね。大抵の女は呉羽に逆らえずにいる。」





それは。



そっとキリコさんを見る。





「・・・それは、キリコさんも?」






尋ねると、キリコさんも私を見て笑った。





「そうだよ。アタシも。呉羽はアタシの親類だけど、その立場が違う。身分が違う。」





親類。




「じゃあ、キリコさんも伊賀の忍?」





「そうさ。呉羽は藤林家の娘で中核にいるが、アタシはただの下忍。下っ端さ。」






年は、近いと思うけれど。






「あんたをどこかしら目の敵にしてるのは、ただの女のサガさ。気にすることはない。」





女の。



そんなのわかってる。






「けれどどうして私を?『楠木正成の恋人の月子』を、どうして目の敵にするの?」






彼の側室である『雛鶴姫』を、目の敵にするのはわかる。




呉羽さんは彼の以前の恋人なのだから。





けれど、正成さんの恋人である月子を、目の敵にするのはおかしい。




ただ、そりが合わないだけかな?

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