第43話

「貴女は、ご自分の殿の価値をよくわかっておりませぬ。」





呉羽さんはにこりとも笑わない。


ただ、冷たい瞳で私を睨みつける。





「真白殿と戯れる暇があったら、ご自分の殿のことをお考えくださいませ。」





ご自分の殿の事を。



その言葉が、胸に刺さる。




護良さまのことを。





本当に、その通り。




私が考えなければならないのは、彼一人なのに。





すっと立ち上がって、呉羽さんを見つめる。




私のほうが若干身長が高いせいか、呉羽さんは少し身を引いた。





「き、昨日、何やらお二人で消えたのを見たと。」





揺らぎながらも、呉羽さんはそう言う。




昨日。



恐らく、別の時代から来たと真白くんに言った時だろう。






「・・・御調べになったのですか?」






「え?」




呉羽さんが眉を歪める。






「伊賀の忍を使って、見張っているのですか?」






じっと見つめる。


呉羽さんは少し唇を震わせた。




それが答えだって、言わなくてもわかる。






「何のために?私を、いえ、真白くんを陥れるために?」





「お、陥れるなどと・・・。」




「私が、いつも考えているのはただ一人。私の殿の事だけでございます。」






私の。



貴女の、ではなく、私の。






絶対に、負けられない。






「真白くんも、私の大事な人には代わりありませんが、貴女の思っているようなことはございません。真白くんまで悪く言うのはやめてくださいと言ったでしょう?」





詰め寄る。


喧嘩なんて、したくない。




けれど、やり方が汚い。





雛鶴を調べて、


月子と真白くんを見張って。





じっと、見つめる。







「・・・貴女が私の行く道を邪魔するのであれば、容赦しない。」







私の。





彼まで延びる、道を。






何か言いたそうに私をじっと見ていたけれど、呉羽さんは私を強く睨みつけて、踵を返して行ってしまった。

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