嫉妬

第42話

「素晴らしいお働きですわね。貴女様の殿は。」







そんな声が背を舐めて、顔を上げる。


そこには、呉羽さんが立っていた。





「・・・どうも。」





短く答えて、包帯を巻く手を動かす。


真白くんのあの言葉が引っかかっている。




《雛鶴》を調べたっていう言葉が。




沸々と湧いてくる怒りを、止められない。



どうして私を調べる必要があるんだろう。


私を疑う必要があるんだろう。




そんなことを思ってしまう。





こんな感情、切り捨ててしまいたいのに。






いつだって、揺らがないで、一歩引いたところで微笑んで見ていたいのに。






「このような奇策、見事でございますわ。」






奇策。




「熱湯をかけたり、岩や石、木を落としたり・・・藁人形を作って敵を欺いたりと、素晴らしいですわ。このような戦、初めて見ました。」



「・・・そうですか?ごく普通の戦でしょう。」





言ってから、しまったと思う。


呉羽さんが驚いた顔をしたから。




いや、だって、今までの正成さんの戦を見たって、こんな戦はしていた。



まあ規模は違うし、策の数も全然違う。





正しい戦なんて知らないけれど。






「これがごく普通な戦であるわけがございませぬ。」






え?





「このような戦、天下に示されるのは、楠木殿が初めてでございますわ。」





正成さんが、初めて?



別に、こんな戦、普通じゃないの?





山の上のお城に籠って戦うのも、



岩とか石とか落としたり、藁人形使ったり、ごく普通の戦じゃないの?





だって、何かで見たことがあるわ。




例えば時代劇だったり、


映画だったり。





思わず、動揺する。

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