第40話

「・・・好きだって、言える距離にいてくれてよかった。」







真白くんはそっと微笑む。





「お前が700年後にいなくてよかった。ここにいてくれて、よかった。例え、むくわれることがなくても、いい。」





いるだけで?



そんな。





苦しいよ、真白くん。





触れたくて、たまらなくなる。




どうしようもなくなる。






「出会えたことが、奇跡だから。」







そっと日が陰る。



憂いを含んで、空が朱に染まり始める。




真白くんは私から目を離して、その空を見つめる。






「・・・萱草色。」







ぼそりと呟く。



広がるのは、あの色。





支子色よりも、もっと赤味の強い、オレンジ色。






「かぞう・・・いろ?」






尋ねると、真白くんはそっと笑った。




「この色ないの?」




「あるけれど、その色の名前はわからないわ・・・。」





一度、頷く。






「萱草っていう百合に似た花があるんだ。その花の色。」






かんぞう?



でも、色の名になると『かぞう』になるのかしら。









「忘れ草。」










「え?」





忘れ草?






「うん。萱草の別名。宮中だと、何か悪いことが起こると赤みの服はやめて、この赤味をやや落とした萱草色を着るんだ。どっちかって言うと、いい色じゃない。凶色だ。」





凶色。




悪い時に肌につける色。






忘れたいことがある時に、つける色?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る