第38話
「俺は、お前の素性なんてどうだっていいって。」
熱が、移ってしまう。
散っていく涙でさえ、熱い。
そっと伸びた両腕の中に、抗うことなく沈む。
抵抗することすら、できなかった。
柔く抱きしめられて、苦しい。
ああ、また肩の位置が高くなった。
「・・・700年なんて、どうだっていいよ。」
どうだって。
果てしないと思っていたその時間の壁を、簡単に破る。
大差ないとでも言うように。
「だって、今ここにいるし。」
耳元で囁かれるその言葉に、また涙の量が増える。
ここに。
現代ではなく、ここに。
1333年のこの場所に。
その腕に力が籠る。
まるで鳥籠に閉じ込められるように。
「・・・つもりじゃなかった。」
呟いた、真白くんの声は揺れていた。
「まし・・・」
「こんなにお前のこと、好きになるつもりじゃなかった。」
好きに。
息を、飲む。
「俺の根本を惜しげもなく壊すくらい、好きになるつもりじゃなかった。」
今まで大事に守ってきたものを、壊すくらい。
世界を180度、ひっくり返すくらい。
切なくて、声が出ない。
喉が、痛い。
「でもさ・・・。」
引きはがされる。
目が合って、そのまま見詰め合った。
「例えばこのまま口づけを交わしたって、お前を抱いたって、何一つ、救われない。」
何一つ。
胸にどういうわけか、棘が刺さる。
「その時はよくても、後から悲しくなる。寂しくなる。きっとお前の心には、どこまで行っても宮様しかいないだろうし。」
どこまで行っても。
あの灰白を思い出す。
私の胸の内はどこまで行っても、真っ白ではなく、灰味がかった白だって。
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