第37話

「・・・とんぼ玉も、おかしいと思った。」






そっと外を見ながら、真白くんは呟く。


微塵も動揺しないその姿が、風を受けて揺れる。




ううん、揺れていたのは私かもしれない。




どうして驚かないのか、不思議でしょうがなかったから。





「あれは700年後には、普通にあるものなの?」






尋ねられて、正気に返る。




「え、ええ。恐らく、ガラスと言うものだと思うわ。」




「・・・がらす。そう、面白いね。」





ケラケラと、笑う。


屈託なく。





私のほうが、動揺している。




気づけば、口を開いていた。






「どうして・・・そんなに難なく受け止められるの?だって普通考えられないことじゃないの。」







普通。





いや、これは私の普通であって、



真白くんの普通ではないのかもしれない。







キツネに化かされた、とか、特に疑問にも思わずに受け止めてしまうこの時代の人にとっては、こんな不可思議なこと、どうだっていいのかもしれない。





いや、でも正成さんだって驚いていたし。


あの人は疑り深いところがあると言えばそれまでだけど。








「だって、お前のことだもの。全部信じるに決まってる。」








真白くん。




私の意志とは関係なしに、涙がぼろぼろ散っていく。




信じるに決まってると言った声は、まっすぐで強かった。







「それにお前、おかしいし。」





少し笑った。




柔く。



柔く。





雪解けの、合図のように。







「変なことばかり知っているのに、生活はままならないわ、俺や宮様にさえ対等な口をきくし、剣を使えるのも、全部遠い場所から来たと思えば、説明がつく。」






そっとその指が頬に触れる。


熱を持って、熱い。





そこから燃え上がる。




胸の内が、悲鳴を上げる。







「言っただろ?」







赤が、滲む。




すぐ傍は、戦場で。


耳をすませば、悲鳴やうめき声が飛び込んでくるのに。





こんな場所で。




こんな時に。

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