第35話
「太一の――大和のことも、何一つ。」
大和も、自分のことを真白くんに話していないんだ。
「宮様は、お前のこと知ってるんだろ?」
じっと見つめられる。
息が詰まる。
「宮様が言ってた。雛鶴のこと、知ってるから余計な詮索はやめろって、呉羽に言ってた。」
余計な詮索は。
彼にだけわかってもらうっていうのも、できないことかもしれない。
「鎌倉の人間だなんて思っていないけれど、教えてよ。」
真白くんは膝をついて私と同じ目線になる。
「いや、俺は別に、鎌倉の姫だって構わないから。」
何者だって、構わない。
その言葉に、泣きだしそうになる。
「俺だって、お前のこともっと知りたい。」
苦しい。
「・・・ね?」
突き放しても、突き放しても、
何度も差し伸べられるその手に、
抗うことなんて無駄だよ、と囁かれているよう。
「・・・もっと、知りたいんだ。」
いつか見た、あの支子色を思い出す。
クチナシの花は真っ白だ。
染めれば赤みの黄色なのに。
ううん、今真白くんから滲むのは、それよりももっと赤の混じった色。
オレンジに近いその色。
染まった赤い頬がそう叫ぶ。
「・・・私っ・・・」
涙混じりで声を上げる。
その色が、何色か知らずに。
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