第34話

「お前がどこで生まれて、どこで育ったか、つまり出身国も、父親や母親も、何一つわからないって。」







冷たいものが、心臓を、舐める。




思わず、胃の中のものをそっくりそのまま吐き出しそうになって堪える。





「わ、たしを・・・。」





「うん。」







「呉羽さんは、私を、雛鶴を、調べたの?」







あの黒い瞳が、歪んでいるのを見る。



赤い唇が、妖艶に歪んでいるのを。






「・・・うん。」






真白くんが、瞳を歪めて頷いた。






「こんなの・・・初めてだって。お前が、鎌倉の間者か、忍びだって。」






鎌倉の。



敵方の。






彼の命を、狙って。







足に力が入らなくなって、その場に座り込む。


ひやりと冷えた板間で、さらに冷えきる。





けれど相反するように、沸々と、怒りが込みあがってくる。






何でこんな理不尽な、やり方。





まるで私を、蹴落とそうとする、やり方。







「思えば俺も・・・。」






真白くんが呟く。



見上げると、真白くんも私を見下ろしていた。








「俺も、お前のこと何一つ知らない。」









何一つ。




だって、私は。





この時代の人間じゃ、ない。

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