第33話

「やはり。しかし宮様のお傍にいるなどと、貴女様のご実家はさぞかし宮様にご忠義を尽くされておりますな。確か法師殿も貴女の親類でしたかな。」





東湖さんはにこにこと笑う。


おそらく、飛清さんのことを言っているんだろう。





違うの、なんて言えない。






私の実家は、ここよりも700年後の世界にあってだなんて言えない。



私がそんなおかしな時代から来たって知っているのは、宮様と飛清法師と、正成さんだけ。





いつかは、言わなければならないけれど。








「さ、そろそろ戦場に戻ろうよ。」






真白くんが突然そう言って、立ち上がった。





「お前も戻りなよ。悪かったね、膳の用意させて。」





いいの、と言いたかったけれど、言葉が落ちない。



確かに私は今まで戦場で救護に当たっていたけれど、真白くんと左虎くんが戻ってきたのを見て、食事の用意をしていた。



そんなこと、お礼を言われるようなことじゃない。





真白くんが、気を使ってそう言ってくれたのはすぐにわかった。





ただ首を横に振る。





そんな私を見て、真白くんは目だけで付いてこいと促す。





思わず立ち上がって、その背を追う。



東湖さんも左虎くんも何も言わなかった。




追っても来ない。





少し離れて、2人きりだということを、真白くんは確認する。






「お前の素性なんてどうだっていいけど・・・。」





「え?」








「『雛鶴姫』の素性なんて、俺は、どうだっていいけど。」








真白くんは言い換えた。



雛鶴姫の素性?






眉を歪めて見つめると、真白くんは私から瞳を外す。







「呉羽が、言ってた。」




呉羽さん?




何で、そこで呉羽さんの名前が?







「どこをどう調べても、お前の素性がわからないって。」








その言葉に、声を失う。



氷の剣が、心臓に突き刺さって、痛みと冷たさを叫ぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る