第31話

「限度があると言うものですよ。左虎。」






そんな声が、背後から掛る。



振り向くと、東湖さんが立っていた。





「月子殿を母君だなんて、聞き捨てなりません。」





「聞き捨てならなくても事実じゃんか。歳は変わらんけどな。それがまたイイだろ?」




東湖さんは薄く笑って首を振った。








「継母とオイシイ関係になるなんて、何てスバラシイ設定ですか!!!!」









その声がこだますると同時に、すごい音が鳴り響く。



真白くんがお膳を投げつけ、私が再びお盆を投げつけたからだ。



それはあんただけの設定だ!!と叫びたいけれど、あまりの怒りで声が出ない。






「私はその設定、是非ともこの身で体験したいですね。」






あはははと爽やかな笑みを唇に刷いて、東湖さんは投げつけたお膳もお盆も綺麗に受け止めた。



この反射神経にまた腹が立つ。





「ざまあみろ東湖。俺はこれから体験するぞ。」





にやにやと笑いながら、左虎くんは東湖さんを挑発する。



仲がいいんだか、悪いんだか。




それに私は一応偽装なのにな。


左虎くんに言うべきだろうか。






私は正成さんじゃなくて、宮さまの側室だって。






「・・・何やら腹が立つので、絶対阻止致しますよ?月子殿をいただくのはこの私ですから。」






にーっこり東湖さんが笑う。



この人はなんだかんだ言って言葉だけだろう。



私が宮さまの側室だって知っているし。


ありがたいんだか何なんだか。



真白くんも呆れて首をただ横に振っていた。






「それにしても、吉野も大分押されているみたいですね。」






東湖さんのその言葉に耳を疑う。






「宮様はご無事?!!」






私の気持ちを代弁するかのように、真白くんが叫んだ。





「ええ。ご無事でございます。押されていると言っても、想定内。元々吉野は落城するのがわかっております。」






落城するのが、わかって。




その答えを、私は知っている。






途端に心の奥を埋め尽くす寂しさに、窒息しそうになる。







「ご無事なら・・・いい。」







真白くんは安心したように呟いた。



それはきっと、本心。

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