第30話

「そ。俺の本当の名は、楠木正行。」






くすのきまさつら。





「な、何で、親子だって言わなかったのよ・・・。正成さんだってひとことも・・・。」





うろたえながらもそう尋ねる。


確か、狼狽しながら、だ。





「知らん。それが教育方針らしい。」




「野生化したけどね。」





真白くんが悪態を吐く。





本当に、自由に伸び伸びと、野生化したのがわかる。



正成さんの知略の知の字も受け継がないまま・・・。





いや、あの人だって、日常生活はどこかしら抜けているから、もしかしたら左虎くんだって、戦場でその知略を発揮すれば・・・ううん、そんなことないか。





絶対ない。





ただ、淀川口で戦した時とか、難波江まで兵糧奪ってくるぜ!って言って、本当に奪ってきた時は大した行動力だなとは思ったけれど。





「な?だからお前は俺の母ちゃんになるな!夜寝れないから添い寝してくれよ!」




「誰が夜寝れないって?お前、俺の隣りでぐーすか寝てるくせに!いびきうるさいんだよっ!」






真白くんがその背に向かって蹴りを入れる。





「・・・はいはい。2人ともここをどこだと思ってるのよ。戦場よ?戦場。」





こんなにぎゃあぎゃあ騒いでいても、ここは戦場。





すぐ外を見れば赤が滲んでいる。


命のやりとりが、すぐ傍で行われているっていうのに。





この2人の戦場との切り替えは、見事だと思うけれど。





「戦場にいるからこそこんな馬鹿やってねえと身がもたねえよ。」





左虎くんは疲れたようにそう言った。



まあそうなんだけれど。

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