第27話

「会いたいぞ。大和。」






その手が、伸びてくる。




「た、高時・・・。」




呟くと、声に成った。





「どこにいる。なぜこのようなところにいる。お前は余と同じ場所。」





高時、やめてくれ。





「同じ、黒の中。」




「い、嫌だ。」





その手から、逃れるように体を返す。



けれど、踵を返して駆けだしたはずなのに、その先にはやっぱり高時が立っていた。






「どこまで行っても、お前は黒の中。闇の中。余と同じ、闇の中。」







そんな。



ようやく水面に顔を出せたと思ったのに。






「明るい世界に行けると思うな。よく見ろ。お前の手は何色だ?」






そう問われて反射的に両手を見る。





真っ赤に染まっていた。






悲鳴を上げそうになって、体が揺れたけれど、両足が動かない。



はっとして息を飲む。





血まみれの人間たちが何人も俺の足を掴んでいる。







「どこへも行けやしない。お前は、鎌倉の人間なのだぞ?」







高時。



一人にしてごめん。





俺だけ黒から脱出してごめん。





忘れてなんかないよ。


共に黒に沈んでいたこと、忘れてなんかない。





そしてどこまで行っても俺は、鎌倉幕府の人間だって、何となくわかってる。





このあと俺が、どうするかなんて薄々決まっている。








「太一?」




その声で現実へと引き戻される。




瞳を開くと、夜明けなのか青い世界で宮様が心配そうに俺を覗き込んでいた。





まるで深海の底で。





「どうした?うなされておったぞ?」





うなされて。



嫌な夢を見た。






「・・・大丈夫。」







大丈夫。




高時。




俺は忘れてなんてない。







自由にしてくれと嘆いていた高時を、


鎌倉幕府の崩壊を願っていた高時を、





俺は忘れてなんかいない。







お前の願いを、俺は必ず叶えてあげるから。








青■基本色名。光の三原色の一つ。寒色。あお。

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