悪夢

第23話

3、4日、ずっとそんな感じが続いている。




鎌倉幕府は、攻城兵器を使うわけでもなく、


ただ、芸もなく攻め込んでくるだけ。





それを破るのは容易い。






ただ、宮様は初め奥吉野の愛染宝塔――あいぜんほうとうに陣を構えていたけれど、用心してもっと吉野川寄りの蔵王堂に本陣を移した。




これによって、本陣と前線の距離は縮まり、宮様の指示が直に最前線まで通ることになった。







つまり、宮様の直接指揮によって、この戦は行われている。








愛染宝塔から前線までは遠い。



宮様が死ねば問答無用で吉野が陥落するのを恐れて、初めは用心して愛染宝塔に本陣を据えた。





けれど今はこの蔵王堂。




もう、目と鼻の先。






この選択が、このあとの吉野の運命を左右する。







もちろん俺はどうなるか知っている。




けれど、言わない。




ただ、ぼんやりと歴史は歴史通り進むのを見る。







「どうだ?上赤坂は。」



「ええ。激闘が繰り広げられていると。楠木殿の奇策で、幕軍は多大な被害を被っているとか。」






宮様と彦四郎さんが話しているのを、何も言わずに聞いている。



上赤坂城戦。



戦闘を開始して、すぐ如月22日――2月22日、幕軍は約600人の死傷者を出した。





この数は、この時代の日本では考えられない死傷者だ。





第二次世界大戦で、アメリカ軍が沖縄を攻めた最初の日に、アメリカ軍が出した死傷者は、約750人。




それと同じくらいの死傷者を、楠木正成の戦術一つで出した。




沖縄戦の時のように、銃火器がある時代ならともかく、刀や矢しかないこの時代で。





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