第21話
冷たい水の中に手を突っ込んで顔を洗う。
ようやく、すっきりする。
「・・・本当に、鬼神のようだったと。幕軍はお前を赤い鬼だと言って恐れておると聞いた。」
顔を上げると、銀色の狼が項垂れていた。
赤い、鬼。
辛そうに歪んだ瞳を、ただ見つめる。
「最前線まで行かなくてもよかったものをっ!!!」
叫んで俺の肩を掴む。
その痛みで自分が生きていると実感する。
些細な、痛みで。
ふがいないと、宮様は呟いた。
いいんだ。
声に出さずにそう思う。
これは俺が選んだこと。
鬼になると、俺が選んだ。
「・・・怪我は、ないか?」
頷く。
声を出さずに。
「そうか。何か温かいものを。」
肩に手を置かれたまま、歩き出す。
触れる冷たさに涙が込みあがってくる。
苦しくて、たまらない。
その手が冷たくて、苦しい。
自分の手も、死人みたいに冷たい。
水を触ったからでも、寒いからでもなく、この手の冷たさの理由がようやくわかった。
宮様の手の冷たさが、ようやくわかった。
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