鬼
第17話
派手な音を立てて、自分の背丈ほどある藪の中へ転がり込む。
赤い世界を振りきって、暗い藍の中へ。
そうして、そこで胃の中のものを全て吐き出す。
もう何も吐けるものはないって言うのに。
心の奥底に溜まった青を、吐き出しては正常を保つ。
このまま青が満ちていったら、苦しさで窒息してしまうから。
ぜいぜいと上がる息だけが静かな藪の中で響く。
この藪から出ればすぐに戦場。
叫び声やらうめき声が充満している。
「いたぞ!!あの男だ!!」
その声に、反射的に刀を突き出す。
そのまま声を上げた男の腹に刺さる。
ぼたぼたと、赤が散る。
椿の花びらが落ちるように。
ああ。
「こっ・・・このっ!!」
刀が刺さったまま、男は呻く。
浅い。
仕留めた、と思ったのに。
いや、もう剣が使い物にならない。
血のりがべったりと付いたそれは、もはや銀でもなくただの赤い棒だった。
テラテラとこの薄暗い世界でも光るそれは、人の脂。
人を斬りすぎると、脂が銀に膜を張ってうまく切れなくなる。
何かの書物で読んだな。
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