第16話

なんて、幸せだったのか。





戦のない時代に生きていた自分が、


この手を赤に染めずに済んでいた時代が、







幸せだったって、知らなかった。








それでもほんの60年前は、誰もが皆、問答無用で戦場へ人を殺しに連れて行かれたのを、忘れちゃいけなかった。




関係ないからと、今ある平和を維持する努力をしなかった。





ここに転落してみて、ようやくわかる。



人が平和を願う気持ちが、初めて理解できた。






戦争がない世界を、と願う気持ちが初めて。







もう後悔したって遅いけれど。



俺はきっともう、あの平和な時代へ帰ることなんて、ないのだから。








赤の中に青を見る。






「・・・し、死にたくない・・・」




足元で蹴りあげた花がそう言う。




赤を撒き散らしながら。





「死に・・・」






躊躇せずにその背に剣を突き立てる。



そのまま、その男は動かなくなった。







一人殺すたびに、心の奥底は、青い冷たさで満ちていった。

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